毎日ヶ原新聞

日本全国、時々中国、たまにもっと遠くへ、忘れちゃもったいないから、旅の記録。

秋の夕御膳(ニッポンの秋を探して・その24)

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818152341.jpg ▲秋のさなかを見事に表現したと言える長湯温泉丸長旅館夕食の前菜。

 2011年11月6日、霜月の御献立。

 長湯温泉郷をぐるりと散歩して丸長旅館に戻ります。6室しかない小さな旅館は庭先から和の雰囲気たっぷりで、玄関に入っても、玄関を上がっても、部屋に入っても、そこここに和の気配りがあり、ほっとします。普段外国暮らしの僕には、こういう落ち着いた和の宿でくつろぐことができるのは本当に心からの休息になります。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818152333.jpg 和の心で満たされる。

 夕食までまだ少し時間があるので、ひとっ風呂浴びてきましょう。

 丸長旅館には客室は6室しかなく、したがって風呂場も大浴場のような大きいものはありません。3、4人が入ればいっぱいになるような小さな風呂場が3つあるだけです。しかしこれで十分。空いていればどの風呂場も24時間いつでも入れ、内側から鍵を掛けることでいつでも貸切利用ができます。お湯は褐色の炭酸泉がいつでもあふれ、身体をじっっくり芯から温めてくれます。あーたまらん。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818152345.jpg 丸長旅館に3つあるお風呂。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818152350.jpg お湯は褐色の炭酸泉。

 夕食時間ぎりぎりまで炭酸泉に浸かってすっかり温まってしまったからには、風呂上がりのビールが欲しくなるのは自然の摂理。さっそく夕食会場に移動して、最初に一杯をいただきます。ぷっはーーーー、うまっっ!!丸長旅館のお食事は食事処でいただきますが、すべて個室の座敷になっているので、周りに気兼ねすることなくぷっはーーができます(笑)。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818152354.jpg 風呂上がりのビール。

 11月に長湯温泉を訪れるのは初めてなので、「霜月の御献立」をいただくのも初めて。いつもおいしいものを食べさせてくれる丸長旅館の11月のメニュー、とても楽しみです。

 先付は「引き上げ湯葉 生姜」。これは丸長旅館の定番メニューの一つ。丁寧に引き上げられた湯葉を生姜醤油で食べますと、芳醇な大豆の香りと甘みがとろけるような食感とともに口の中に広がります。丸長旅館に来たらなくてはならない一品です。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818152358.jpg 定番中の定番です。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818152403.jpg いつ食べてもとてもおいしい。

 丸長旅館の御献立の中で最も季節を感じることができるのが、次に出てくる前菜です。

 霜月の御献立では、木の皮で編んだ焦げ茶色のざるに葦簀(よしず)が立てかかり、その上にモミジとイチョウの葉っぱがあしらってあります。その葦簀を取りのけると、その下からは、色づいた落ち葉を敷いた上に配された前菜の数々が姿を現します。ニッポンの秋の情緒を知らなければ到底作り得ない、季節を大切にした和の一品です。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818152409.jpg 秋らしい装いの前菜。

 さまざまなものを少しずつ食べるのが和食のよいところ。この前菜も、量は多くはありませんが、びっくりするぐらいたくさんの食材が使われています。

 まず朱色の小鉢は、「柿の胡麻和え」。果物の柿を使った一品はニッポンの秋ならでは。柿の甘さと酸味、胡麻の甘さが渾然一体となって舌をとろけさせてくれます。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818152415.jpg 柿の胡麻和え。

 落ち葉の上に直接並べられているのは、大根寿司、茗荷寿司、銀杏、そして柿バター。柿バターは干し柿を薄く削ぎ、バターを巻いたもの。大根寿司と茗荷寿司は甘酢仕立てでしゃきしゃきとした食感がうれしい。茗荷の香りはニッポンならでは。ギンナンの実はどこまでもつややかです。

 そしてもう一つの小鉢がこれまた盛りだくさん。焼き栗、銀杏ハンペン、柚子の甘露煮、蒟蒻の旨煮、サーモン焼き林檎、そして丸十。「丸十」ってサツマイモのことなんですね。薩摩藩島津氏の家紋が丸に十字だからだそうな。銀杏ハンペン、こんなに小さいのにちゃんとイチョウの形で芸が細かい。柚子の甘露煮、デザートにしてもいいくらいのほのかな甘さと酸味。とにかく小鉢のどこへ箸をのばしても秋一色で、もうこれだけでビールが進んでしょうがない(^^)。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818152421.jpg 茗荷寿司、イキだなあ。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818152427.jpg ▲秋の味覚がぎっしりと詰め込まれた小鉢。甘味も酸味も渾然となってすばらしい酒の肴に。