毎日ヶ原新聞

日本全国、時々中国、たまにもっと遠くへ、忘れちゃもったいないから、旅の記録。

カドリオルグ宮殿(Long Summer Vacation;その71)

f:id:mainichigaharu:20200209230740j:plain▲エストニアの路面電車。車両はチェコ製。1系統の終点「Kadriorg」にて。

 

2018年7月28日、タリン市電。

 

 タリン西郊にある海洋博物館「Lennusadam」から旧市街地の方へバスで戻ってきて、午後は今度は路面電車に乗って東の方に行ってみます。

 

 タリン市内では、路面電車(タリン市電;Tallinna trammiliiklus)が4系統、「ヴィル門」の東側のショッピングモール「Viru Keskus」の近くの「Hobujaama」電停で全系統が交わる形でX字のように走っています。1888年に馬車鉄道で運行が始まったタリン市の路面鉄道は、その後、2度の大戦など様々な紆余曲折を経つつ、現在は直流600V、狭軌、営業距離4系統39kmとなっています。

 

 今回ヘルシンキからタリンに到着したときに空港から4経統の「Tondi」行きに乗りましたが、たったひと駅乗った次の電停「Ülemiste linnak」で事故運休となってしまったので、僕はこれまでそのたったひと駅ぶんしかタリンの路面電車に乗ったことがありません。なので、ちょっと長めに乗ってみたいと思います。

 

f:id:mainichigaharu:20200209230736j:plain▲「ヴィル広場(Viru väljak)」のカーブですれちがう1系統「Kopli」行き。

 

f:id:mainichigaharu:20200209230731j:plain▲1系統「Kadriorg」行きの車内。3連接車両の最後尾車両です。

 タリンの路面電車を走っている車両については、コチラの記事でも少し書きましたが、チェコの車両メーカー「タトラ」社製の車両が多く活躍しています。1980年から1988年にかけて「タトラ」社製「KT4形」のソ連モデル「KT4SU形」が多数導入され、それに東西ドイツ各都市から譲渡された「KT4D形」も加え、新造した低床車体を中間に組み込んで3連接車両「KT6T形」に改造し、更に2016年から2018年にかけて再度の近代化工事を経て「KT6TM形」となって現在に至っています。

 「ヴィル門」の東側の大通りが交わる「ヴィル広場」の北側にある「Mere puiestee」電停から、1系統「Kadriorg」行きに乗ります。車両はまさにその3連接の「KT6TM形」です。我々は「タリンカード」を持っているので、これをピッとするだけで乗ることができます。でも終点「Kadriorg」までは遠くはなく、実は4つめの電停がもう終点。ちょっと物足りなかったかな。 

 

f:id:mainichigaharu:20200209230806j:plain▲カドリオルグ宮殿と色とりどりの花が盛りのフラワーガーデン。

 「Kadriorg」電停で降りてすぐ目の前の通り(「ヴァイツェンベルジ通り(Weizenbergi)」)をそのまままっすぐ先へ歩いて行くと、前方には木々が生い茂る広い公園のようなところがありまして、ここが「カドリオルグ宮殿(Kadrioru loss)」を中心とする「カドリオルグ公園(Kadrioru park)」です。木陰をのんびり散歩するだけでも気持ちの良い場所です。

 1700年~1721年の「大北方戦争」のさなか、スウェーデンの属領だったエストニアが1710年に征服されてロシア・ツァーリ国に編入されると、時のツァーリ・ピョートル1世は、妻エカテリーナのために、タリン西郊のラスナマエ(Lasnamäe)地区に小さなオランダ風のマナーハウス(荘園領主の邸宅)を購入します(だからなのか、ラスナマエ地区は今もタリンの中でロシア系の人々が多数住んでいる地区になっています。)。しかし、もっと広いところをと考えたピョートル1世は、別の場所に新しく宮殿を建てることにし、夏の離宮として1718年7月25日に着工されます。イタリアの建築家ニコロ・ミケッティが設計を手がけ、バロック様式でデザインされた宮殿は完成までに5年の歳月を要し、「エカテリーナの谷」を意味する「カドリオルグ」という名が付けられました。ピョートル1世とエカテリーナは何度か建築現場に足を運んだそうですが、1725年にピョートル1世が亡くなると、エカテリーナはもはやこの宮殿に興味を示すことはなかったそうです。


 公園の林の中をしばらく歩いていると開けたところに出て、宮殿の建物が見えてきました。思ってたより建物は小さい感じがしますが、1828年から1830年まで大がかりな改修工事が施された宮殿は、たいへん美しいそのバロック様式の姿で今もたたずんでいます。

f:id:mainichigaharu:20200209230751j:plain▲バロック様式の宮殿と夏の花盛りのフラワーガーデンとの美の競演。

 宮殿は今、「カドリオルグ美術館(Kadriorg Art Museum)」として公開されています。入館料は8ユーロですが、タリンカードがあるとここも無料。タリンカード、無敵。

 ここには、エストニア国立クム美術館の海外コレクションが集められていて、西側諸国やロシアの芸術家によって16世紀から20世紀の間に制作された多数の絵画、版画、彫像などが展示されています。建物そのものに施された化粧漆喰(スタッコ)による装飾や天井のフレスコ画なども見所ですし、中世の貴族たちが身に着けていた衣装なども展示されています。

 宮殿の目の前に広がる庭園も見逃せません。イタリア式の庭、オランダ式の水路、フランス式の軸対象な歩道や花壇の配置、ロシア式の花などなど、多様な文化圏に由来するバロック様式の要素が組み込まれているらしい。そうとわかっていてもいなくても、庭園では色とりどりの夏の花が今を盛りに咲き誇っていて、美しいことこのうえありません。

 f:id:mainichigaharu:20200209230757j:plain▲中世あるいは帝政ロシア時代の貴族たちが来たであろう衣装なども展示されています。 

 

f:id:mainichigaharu:20200209230744j:plain▲宮殿と同じく、庭園も幾何学的な図形を主とした構成を持つバロック様式。

 宮殿の中にはカフェがあるので、ここでティータイムにしましょう。

 色とりどりのマカロンやけっこう大きめのショートケーキなんかもあるので、飲み物と一緒にいただきます。そういえばこの日は、ホテルで朝食をたっぷり食べてから「Lennusadam」へ出かけたっきりなので、ランチは食べていないんでした。

 ティータイムでひと息ついたら、宮殿前の庭園から再び「ヴァイツェンベルジ通り」に出てさらに奥へと進んでいくと、また一つ立派な建物があります。これはエストニア大統領の官邸。日本の総理官邸は警備が厳しくて近づくこともままなりませんが、こちらエストニアは、特に囲いも見張りもなく、正面玄関のすぐ前で子どもが遊んでいたりします。なんておおらかなんでしょう!

 大統領官邸の建物そのものは1938年に建てられたもので、外観は宮殿によく似ているような気もします。建物の上にエストニアの旗がはためいていれば大統領は国内にいるというしるしだそうなので、この日は国内にはいないのね……だからこんなに無防備なのかしら?

 

f:id:mainichigaharu:20200209230802j:plain▲宮殿内のカフェで、ココアとともに、マカロンやショートケーキなどを。

 

f:id:mainichigaharu:20200209230747j:plain▲こちらは今も現役の大統領公邸。国旗が上がってないので大統領は国内に不在らしい。