毎日ヶ原新聞

日本全国、時々中国、たまにもっと遠くへ、忘れちゃもったいないから、旅の記録。

瀋陽ライトレール

イメージ 4 ▲2018年の元日の朝、瀋陽桃仙空港前電停で出発を待つ瀋陽ライトレールの車両。

 2018年1月1日、お正月の話題を一つ。

 2018年が明けました。明けたと言っても、中国では旧正月(春節)こそが年越しでありますからして、1月1日を迎えたからと言って、こちら瀋陽ではなんの盛り上がりもありません。静かなもんです。

 この日は、元日だというのに早朝から瀋陽桃仙空港へ行く用事があり、氷点下二桁の厳寒の中、行きましたよ空港に。でも、客を見送って用事はすぐに済んだので、家に帰る。早く家に帰って暖まりたいし、二度寝したい。元日だもの。

 ところで、瀋陽桃仙空港は、街の中心部とのアクセスが非常に悪く、特に外国人の居住者や来訪者にはひどく評判が悪い。シャトルバスは行き先が少なく混んでて乗客がいっぱいになるまでなかなか発車しないし、タクシーはいつボラれるかわからないのでなるべく乗りたくないし、鉄道は通じてないし……社用車とかの送迎がないと、ホント外国人泣かせですこの空港は。

イメージ 3 ▲「2号線」は空港と「興隆大奥莱」というショッピングモールを結んでいます。

 だからなのかどうなのか、2013年に、空港を含む「渾南」と呼ばれる瀋陽市南部に広がる広大無辺な開発新区に、·「瀋陽渾南現代有軌電車(Shenyang Hunnan Modern Tramway)」という路面電車(ライトレール)が敷設され運行を始めました。この年の8月に、日本の国体にあたる「全国運動会」が瀋陽で開催されるのに合わせて整備されたという背景がありそうですが(「全国運動会」の開催地になることは超名誉なことであるとともに、一世一代の見栄の張りどころなので、一気に都市整備が進む傾向がある。)、現在では、1号線、2号線、3号線、5号線が開業しており、4号線と6号線が2019年1月5日から乗客を乗せての試運転営業を始め、6路線の総営業キロはのべ87.8kmとなっています(重複する区間もあるので実キロは60kmぐらいか。)。

 このうち、瀋陽空港まで乗り入れているのは2号線と6号線で、 街の中心部の方へ向かうのは2号線です。運行キロは14.8kmで、瀋陽空港~興隆大奥莱の間に電停が16カ所あります。軌間は1,435mmで、最高速度は70km/h。これの何がダメかというとですね、まず第一に、上海浦東空港から出てるリニアモーターカーと同じで、これに乗っても渾河の北に広がる街の中心部へ行けないこと。終点の興隆大奥莱で降ろされると、さらに地下鉄やバス停まで歩いて乗り換えたりタクシーを拾ったりしなければならない。そして次に、遅い。空港から終点の興隆大奥莱までのんびり走ってゆうに40分以上はかかったと思うのですが、路面電車なんだからまあそれぐらいはかかるでしょう。これがですね、都電荒川線のように、自動車と一緒になって走る併用軌道部分があり、道幅が狭かったり交通量が多かったりしてゆっくりした速度でしか走れないとか、こまめに電停を置いて市民の足の便を図るとか、そういうんであれば、理解できます。

イメージ 1 ▲雲一つない青空が広がる元旦、雪もまったくないので写真では伝わらないけど、ものすごく寒いです。

 しかしですよ。

 ちょっと一緒にUPできる写真がなくて申し訳ないんですが、瀋陽の路面電車が走る渾南エリアは、そのほとんどが21世紀初頭までただの原野だったところで、そこを「新区」として開発しつつあるわけですから、とにかく土地だけはイヤと言うほどありまっせ!というエリア。格子状に造成された道路は片側4車線、5車線は余裕にあり、しかも直線ばかり。しかも、「新区」の南側(つまり空港に近い方)になればなるほど、建物はまだできておらず、更地のオンパレード。人影なんてまったく見当たらない。

 つまり、建物もなく人影もなくただひたすら広くて直線ばかりの道路という、およそ路面電車もしくはライトレールというものの特徴と役割の発揮のしどころがない場所を、瀋陽渾南現代有軌電車は、少ない乗客を乗せて日々ちんたらと走っているのです。そして瀋陽に住むあるいは瀋陽を訪れる外国人たちは、均しくこう思っているのです。「こんなに広い土地が有り余ってるんだから、空港から市内までの普通の鉄道を作れよ。そしたら片道10分ぐらいで空港にアクセスできるようになるのに」と。

 一説によれば、富山県と友好省県関係を長年結んでいる遼寧省の幹部が富山県を視察に訪れた際、富山駅北口と岩瀬浜を結ぶ富山ライトレールや、高岡駅と越ノ潟を結ぶ高岡市の万葉線を視察して、「おっ、これはカッコイイ、全国運動会の開催地にふさわしい公共交通であるな」と感じ、ツルの一声で瀋陽市での建設が決まったのだとか。それが本当なのかどうかはわかりませんが、そう言われてみると、青く塗られた車両は、ドラえもんの作者藤子・F・不二雄氏の故郷ということで、万葉線で走らせている「ドラえもんトラム」に似ていなくもない。いや、すごく似てる。いやいや、そっくり、もう「ドラえもんトラム」にしか見えなくなってきた!

 この瀋陽版「ドラえもんトラム」、車両はCNR中国北車グループ長春軌道客車製のものにドイツ・フォイト社の駆動装置を取り入れたものだそうです。アナタもぜひ、荷物がなく、時間に余裕があり、興隆大奥莱や奥体中心あたりで地下鉄なりバスなりタクシーなりを探してさまようことになってもイヤにならないようでしたら、瀋陽の最先端の公共交通「瀋陽渾南現代有軌電車」に乗ってみてはいかがでしょうか。ただし、瀋陽空港に夜遅く到着する場合は要注意。2号線の終電は瀋陽空港発22:10ですので。

イメージ 2 ▲車両は「中車長春軌道客車(CRRC Changchun Railway Vehicles Co., Ltd.)」の製造。