毎日ヶ原新聞

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「湯の曲輪」そぞろ歩き。(2018年月イチ日本・3月編;その10)

イメージ 1 ▲加賀山代温泉の中心とも言える共同浴場「古総湯」。

 

 2018年3月18日、男生水・女生水。

 

 「御菓子司 丸福」の前を通り過ぎ、「ゆのくに天祥」から歩くこと約700m、広場のような場所に出て、その真ん中に建っているのが山代温泉の中心とも言える共同浴場の「古総湯」です。

 

 前回の記事でも触れましたが、山代温泉は、日本神話で、神武天皇を大和の橿原まで案内したとされ導きの神として信仰されている三本足の霊鳥「ヤタガラス」が羽の傷を癒した水たまりがはじまりだとされています。温泉守護のため、薬師如来、日光、両菩薩及び十二神將を彫刻して堂宇を建て、さらに白山大権現を勧請して鎮守として「薬王院温泉寺」がすぐ近くに建立されました。霊峰白山を祀る「大聖寺」「小野(坂)寺」「南郷堂林廃寺」「温泉寺」「柏野寺」の「白山五院」に筆頭寺院であり、「白山五院」のうち現存するのはこの「温泉寺」のみです。時代下って、1565年(永禄8年)には、傷を負った明智光秀も湯治で10日間にわたって滞在したことがあるとか。

 

イメージ 6 ▲南側から見た「古総湯」。新芽を吹いたばかりの街路樹の柳がいい感じ。

 

イメージ 3 ▲「古総湯」の西側に接近。

 

 更に時代下って江戸時代の温泉場は、共同浴場が中心にあり、その周りに温泉宿が立ち並び、湯治客は共同浴場に通ったり自然の中を散策したりして長逗留していたそうです。北陸地方の場合は、中心となる共同浴場を「総湯」、その周りのまち並みを「湯の曲輪(ゆのがわ)」と呼ぶそうです。

 

 今、中心となっているのは「古総湯」なわけですが、これは明治時代の「総湯」を復元した建物。外観だけでなく、2階の休憩所や、浴室の床や壁の九谷焼のタイルやステンドグラスなど、当時の様子が忠実に再現されていて、当時の入浴方法も味わうことができるなど、温泉の歴史や文化を学べる「体験型温泉博物館」みたいな施設になっているそうです。浴場にはシャワーやカランを備えた洗い場はなく、石鹸やシャンプーも使えないので、ひたすら湯に浸かるだけ。いいねえ。

 

イメージ 2 ▲「古総湯」の中に入ると回廊になっていて、明治期の泉質表や当時の写真などがパネル展示されてます。

 

 「古総湯」を中心とするロータリーの道路をはさんで「古総湯」の南向かいにあるのが、「総湯」。ここにはかつて老舗旅館「吉野屋旅館」があったそうで、「総湯」はその跡地に建てられました。「吉野屋旅館」の門を活用するなどその歴史を継承し、「湯の曲輪」の中に溶け込んでいます。

 

 「総湯」の裏手の方には深い林が広がっていて、ここにあるのが「薬王院温泉寺」。仁王門、本堂、大師堂、白寿観音、五輪塔などが点在してるようです。

 

 今回は「総湯」にも「古総湯」にも立ち寄れませんでしたが、「総湯」の入湯料は440円、「古総湯」は500円とお手頃なので、次に訪れる機会があったら、共同浴場をハシゴして、温泉寺の境内を散策してみたいものです。

 

イメージ 4 ▲老舗旅館「吉野屋旅館」跡地に建てられたもう一つの共同浴場「総湯」。

 

イメージ 5 ▲門は「吉野屋旅館」時代のものをそのまま活用。

 

 そろそろ出発の時間が近づいてきたので、来た道を宿へと戻ります。

 

 その途中でふと目に留まったのは、小さな神社のようなところ。「男生水 水掛地蔵尊」とある。地蔵尊の横には石造りの水鉢があり、清水が注ぎ込んでいます。水鉢の脇に掲げられた案内板によれば、山代温泉開湯より更に早い3世紀頃には「山背の七生水」と呼ばれる湧き水がこのあたりにあったようで、そのうち「堂ノ上ノ生水」と呼ばれていた湧き水が今のこの「男生水(おとこしょうず)」であるらしい。「干天続きの真夏でも渾々と水を湛えて附近住民の生活用水として不可欠のものであった この恵みある生水を崇め 守護してもらうため地蔵を祀り だれ云うとなく男生水として親しまれ信仰されるようになった」とある。1937年(昭和12年)5月の山代大火でもここで延焼を食い止めたのだとか。

 

 「古総湯」に近い山手には「女生水」があるらしく、そちらは温泉旅館で働く女衆が朝夕水汲みに往来し、「男生水」の方は、朝夕の決められた時間に、男どもがいっぱいに汲んだ水桶を2つ吊した天秤棒を肩に担いで運んだことから、このような名前になったのだとも。道に面した案内柱には「昔よりこの生水は夫婦相和して飲水すれば子宝に恵まれるとの言伝えがある」とも書かれていて、お参りすると授かりものに恵まれるということで、今も多くの人が訪れ大切にされているのですね。

 

イメージ 7 ▲「山背の七生水」の一つ「男生水」は「水掛地蔵尊」とともに。