太宰治生誕100周年記念トリップ(その6;太宰列車)
2009年9月3日、太宰列車。
冬の「ストーブ列車」で有名な津軽鉄道は、夏は「風鈴列車」、秋は「鈴虫列車」を走らせて、一年中楽しめるようになっています。僕が乗ったこのときは、9月1日に「鈴虫列車」が走り始めてすぐのときでしたが、前後の運転台の後ろの壁の上方に虫かごが据え付けられていました。しかし、秋というにはまだちょっと時期が早いゆえ、スズムシはちっとも鳴いてくれません。ま、しかたないか……
運転台後ろに虫かごが。
ちっとも鳴いてくれない。
太宰治生誕百年のヘッドマークが付いた列車は「太宰列車」と呼ばれ、車内も太宰治を満載です。運転台の横のスペースには「太宰文庫」といいますか、新潮文庫の太宰治作品など、太宰の本がずらり。誰でも気軽に手に取って太宰の作品に触れられるようになっています。
車内でも気軽に太宰作品が。
それから天井。いつもなら吊り広告がぶら下がる場所に、手書きで「太宰列車ば。」等と書かれた紙がぶら下がり、網棚の上には、天井に沿って、津軽鉄道沿線にまつわる小説「津軽」の場面をイラストとともにこれまた手書きで書いた紙がびっしりと貼ってあります。これをひと通り読めば、乗客は津軽鉄道沿線の小説「津軽」の舞台を概観することができるし、自分の気に入りのフレーズを拾い読みすることもできます。
天井に手作り小説「津軽」。
僕のいちばんの気に入りはもちろん太宰が乳母タケと小泊で再会するシーン。でも、「『ね、なぜ旅に出るの?』『苦しいからさ。』」が好きな人もいるでしょうし、「若い娘さんが、大きい風呂敷包みを二つ両手にさげて切符を口に咥へたまま改札口に走つて来て、眼を軽くつぶつて改札の美少年の駅員に顔をそつと差し出し、美少年も心得て、その真白い歯列の間にはさまれてある赤い切符に、まるで熟練の歯科医が前歯を抜くやうな手つきで、器用にぱちんと鋏を入れた。」という芦野公園駅でのワンシーンが好きな人もいるでしょう。自分の好きなワンシーンに触れることができるのが、この手作りの「太宰列車」なのです。
イラストでタケとの再会。
ところで、9月22日付けの青森の地元紙「東奥日報」Web版に、「列車内で『津軽』朗読リレー」という記事が載っていました。19日に、青森県西北五地域のボランティアがJR五能線や津軽鉄道の列車内で小説「津軽」を朗読し観光客などに聴かせたということで、津軽鉄道の車内で「津軽」を耳でも楽しめるすてきな企画だと思いましたので、その記事全文を以下にご紹介します。これは19日一日きりの企画だったのでしょうか。ずっとやってほしいなあ。
列車内で「津軽」朗読リレー西北五地域の読み聞かせ団体や鉄道関係者でつくる「津軽のわ実行委員会」は19日、JR五能線の深浦駅-五所川原駅間と津軽鉄道の津軽五所川原駅-津軽中里駅間の車内で太宰治の小説「津軽」を読み上げる朗読リレーを行った。朗読リレーは列車が走る地域にかかわりのある場面を、小説「津軽」の中から読み上げ、市民や観光客にJRと津鉄を楽しんでもらうもので、今回が初めての試み。JR深浦駅を出発した列車には深浦町と五所川原市の読み聞かせ団体らが乗車。読み手5人が交代で朗読すると、乗客から拍手がわき起こった。