毎日ヶ原新聞

日本全国、時々中国、たまにもっと遠くへ、忘れちゃもったいないから、旅の記録。

六芒星やら白象やら(2018年月イチ日本・2月編;その3)

イメージ 1 ▲入り口上に六芒星を頂く「関西ユダヤ教団」のシナゴーグ。

 

 2018年2月19日、宗教の息づかい。

 

 生田神社から「トア・ロード」をさらに山手へ向かって歩いていくと、赤煉瓦倉庫のようにも見えるおしゃれな外観の「神戸北野ホテル」の前を通って、神戸の定番観光エリア・北野異人館通りの方へ上がっていきます。

 

 神戸港は、1868年(慶応3年)に、函館・長崎・横浜に次いで開港。その際、外国人の居留地として指定されたエリアが神戸市中央区北野町の一帯だったことから、このあたりには主に明治から大正にかけて洋館が数多く建てられ、神戸大空襲も免れたので、今でもそれらの建物が多く残っているのだそうです。

 

 「神戸北野ホテル」を通り過ぎて「異人館通り(山本通り)」の交差点に至り、それをさらに上り、「北野通り」へ入っていくつか角を曲がりつつ進むと、白壁に「ダビデの星(六芒星)」が飾られた建物に行き着きました。

 

イメージ 2 ▲入口右手の壁にはヘブライ文字も描かれています。

 

 ここは、「関西ユダヤ教団」のシナゴーグ。シナゴーグとは、ユダヤ教の会堂のことで、要するにユダヤ教会ですね。ここは日本国内最古のシナゴーグだそうです。日本国内でキリスト教の教会を見かけることはいくらでもあっても、ユダヤ教の会堂に出くわすことはまずないですよね。これは珍しい。

 

 シリア・アレッポ生まれのユダヤ人Rahmo Sassoon氏がビジネスマンとして神戸にやってきたのは1936年(昭和11年)のこと。氏は、神戸に住むユダヤ人たちの世話役となり、ユダヤ人コミュニティーの集いの場として、家屋を借り上げてシナゴーグを開き、氏の父Shelomoh Sassoonの名前から「Ohel Shelomo(オエル・シュロモ)」と名付けます。「Ohel」とはヘブライ語で「幕屋、天幕」という意味で、聖書「出エジプト記」に出てくる「会見の幕屋」のような移動式神殿のことで、モーセがここに入ると神が降りてきたそうです。戦火にある神戸のユダヤ人たちが神の下に集えるよう、そのような名前をつけたのではないでしょうか。そして1970年、シナゴーグの建て替えに合わせて「関西ユダヤ教団」が設立され、現在に至っているようです。ユダヤ教の二大勢力のうち、オーソドックスなセファルディム(ミズラヒム)派を奉じているようです。

 

イメージ 3 ▲「シュロモの天幕」とでも訳すのがよいか。ちなみに「シュロモ」は英語だと「ソロモン」。

 

イメージ 4 ▲1970年竣工時に埋め込まれた銘板かな。

 

イメージ 5 ▲南側の通りに面した殺風景にも見える壁。「関西ユダヤ教団」の文字が掲げられています。

 

 「北野通り」を、引き続き東へ向かって歩き、「ハンター坂」の突き当たりを通り過ぎてさらに少し行くと、左側に、またしても見慣れぬ風情の白い建物が出現。白一色の石造りの建物に施された彫刻の飾りは、象がいたりするから、これはインド関係かしら?

 

 そう、インドから取り寄せた大理石で覆って1985年に建てられたこの建物は、ジャイナ教の寺院「バグワン・マハビールスワミ・ジェイン寺院(BHAGWAN MAHAVIRSWAMI JAIN TEMPLE)」。ジャイナ教ですよ、ジャイナ教。高校の世界史の授業で聞いて以来じゃないかな、ジャイナ教なんて聞くの。そんな宗教の寺院がまさか日本にあるとは思わなんだ。

 

イメージ 7 ▲北野通りの住宅街の中で異彩を放つ白い大理石の建物は、日本で唯一のジャイナ教寺院。

 

 なにしろこの寺院は、日本で唯一のジャイナ教寺院。これは本当に珍しい。ジャイナ教徒は商人が多いとされ、それゆえに神戸に住む人が多かったからだ言われますが、それにしても商人なら横浜や長崎にもいてもよさそうな気がするけれど。

 

 ジャイナ教の開祖はマハーヴィーラ(Mahāvīra)。十六大国時代のインドのマガダ国ヴァイシャーリーに生まれた紀元前6世紀ぐらいの頃の人。ジャイナ教は徹底した苦行・禁欲主義で、インド以外にはほとんど伝わらなかったものの、インド国内に深く根を下ろして、およそ2500年にわたって影響を与え続け、現在も約400万人の信徒がいるようです。

 

 ここ「バグワン・マハビールスワミ・ジェイン寺院」は、門を入ると階段があり、それを上るときらびやかに装飾されたドアがあり中に入れるようになっています。門の上や屋根の上、柱などを覆った大理石には細かな彫刻が施されていて、目を奪われます。しかし、ジャイナ教の戒律はあまりにも厳しく、現代になお生き残っていることが、しかもそれを日本のような異国の地で続けられているということが、僕のような凡俗な人間には本当に不可思議の一言に尽きます。

 

イメージ 6 ▲門から続く階段の上にある入口のドアはきらびやかに装飾されています。

 

イメージ 8 ▲門の上などの大理石には細かな彫刻が施され、いかにもインド!って感じがします。