毎日ヶ原新聞

日本全国、時々中国、たまにもっと遠くへ、忘れちゃもったいないから、旅の記録。

夏の津軽は「あけぼの」で⑧(蔦温泉でホタル)

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818111834.jpg ▲南八甲田、蔦温泉に到着~。

 2005年7月17日、蔦温泉

 蟹田から青森へ戻ってきてお昼。お昼は僕の帰省時の定番、ラーメン屋「味の札幌」の味噌カレーバターラーメン。ウマイ。暑い夏に食べるとまたひときわウマイ。おかわりしたい。

 おなかもいっぱいになったところで、今度は趣向を変えてバスの旅です。青森駅前発14:20のJRバス「みずうみ10号」十和田湖行きで出発です。

 十和田湖へのアプローチは、盛岡から、花輪線鹿角花輪十和田南から、八戸から、青森からといろいろなルートがありますが、青森から八甲田を越えていくルートはかつては「十和田北線」、今は「八甲田・十和田ゴールドライン」と呼ばれ、冬は雪で閉ざされてしまうルートです。青森駅前を出ると、青森市民の手軽なスキー場である雲谷スキー場から山へ分け入り、萱野高原を経て八甲田ロープウエイ、城ヶ倉温泉酸ヶ湯温泉、猿倉温泉、谷地温泉蔦温泉と数々の温泉地に立ち寄り、奥入瀬渓流散策の拠点・焼山や石ヶ戸から奥入瀬沿いに十和田湖へ至る、全線で所要約3時間のバス路線です。

 どの温泉にも降りてみたいところですが、地元の知り合いから「蔦の湯はいいよ~」と常々聞かされていたので、今回は初めて蔦温泉へ行ってみることにしました。

 蔦温泉は、八甲田を越えて南側へ下りまもなく奥入瀬も近いというあたりにある一軒宿。12世紀にはすでに湯治小屋があったと伝えられる歴史があり、その一軒宿は、1909年(明治42年)に共同管理の湯治場から旅館へと形態を変えて今に至っています。現在の宿は、本館、別館、西館の三棟から成り、本館は1918年(大正7年)築、別館は1960年、西館は1988年の築です。大正7年の本館に泊まりたいところですが、今回割り当てられたのは別館の一室でした。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818111839.jpg 玄関のある本館正面。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818111843.jpg 黒光りする板張りの玄関。

 別館へは本館から約60段の階段を上っていかねばなりません。これはなかなかしびれます。特に夏の暑い風呂上がりにこの階段を上ると再び汗が噴き出ます。別館もそれなりに古くて味があるのですが、この階段をクリアしなければ行けないというのはちょっと万人向けではありません。翌朝、宿の人(男性)が、別館各部屋の冷蔵庫へ補充するため瓶ビールを満載した竹籠をかついでこの階段を上っていたのを見かけて驚きました。これはたいへんな作業です。毎日こんな重い物をかついで上っているなんて、別館の運営は宿の人にとっても苦労が多そうです。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818111852.jpg 本館から別館へ心臓破りの階段。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818111847.jpg 階段の途中から別館をのぞく。

 蔦温泉旅館には二つのお風呂があります。一つは「久安の湯」、もう一つは「泉響の湯」。どちらも厚く大きなブナの板で浴槽をこしらえてあります。ここの温泉の特徴は、浴槽の真下に源泉があるということです。浴槽の底のブナの板の隙間から、ぼこり、ぼこりと温泉がわき上がってきます。誰も入っていなくて波のたっていない湯の水面をじっと眺めていると、あっちでぼこり、こっちでぼこりとお湯が底からわき上がってくるのがわかります。そして、わき上がってくるお湯は無色無臭ですがとてもよいお湯です。わき出したばかりの「生の湯」はこなれていないため、最初は熱く感じたり肌が刺激されるように感じたりすることがあるそうですが、繰り返し入っているとしだいに湯がなじみ、よいお湯であることがわかってきます。蔦温泉のお湯、大好きです。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818111857.jpg ▲夕食のお膳。

 夕食のお膳には、八甲田で採れる山菜や鮎、鴨鍋がならびます。むつ湾のホタテ、県南特産の菊の花などもあり、決して豪華ではないけれどシンプルでおいしい食事が楽しめます。

 夏の暑さはここ蔦温泉でも珍しく夜になってもなかなか退きません。食後に外に出てみましたが、確かに山奥のひんやりした感じはこの日の夜にはあまりありませんでした。
 宿から少し歩くと、十和田湖や八甲田方面とつながる国道103号線に出ます。街灯もなく真っ暗で、時折走ってくる車がヘッドライトの明かりを投げかけるだけです。

 このあたりに、ホタルがいるのです。

 僕も前にホタルを見たのはいつだったろうかと悩むほど長い間、ホタルを見たことがありません。たぶん小さい子どもの頃に見たことがあるきりだと思います。いるといいな、見られるといいなと願いながらうちわで道路脇の藪をかき分けたりして探していると、あっ、いましたいました!しかも一匹だけではなく、何匹も、ほのかな明かりを明滅させながら、ゆっくりとゆっくりと(秒速50㎝なのだそうですね)飛んでいます。青森でホタルを見ることができるなんて、感動です。飛んできたホタルをうちわに載せてみたり、文字通り童心に帰って長い間ホタルと戯れてしまいました。

 夜更けにもう一度泉響の湯に浸かりました。他に誰もいなかったので、ぼこりぼこりとわいてくるお湯と、高さ12mの吹き抜けの天井に響く湯の流れる音を独占できました。なんと気持ちのいいお湯なのでしょう。今日一日の旅の疲れをここですべて流して、床につくことにしようと思います。