毎日ヶ原新聞

日本全国、時々中国、たまにもっと遠くへ、忘れちゃもったいないから、旅の記録。

足立美術館(旅するニッポン、春たけなわ;その21)

イメージ 3 ▲日本庭園ランキングで、2003年から2015年まで13年連続庭園日本一になった足立美術館の庭園。

 2016年4月4日、枯山水。

 島根県で訪れるべきスポットとして足立美術館が有名であることは以前から知っていましたが、今回ついに訪れることができました。

 しかし、あんなに不便なところにあるとは知らなかった。安来駅前(一部米子駅前)と美術館との間に無料シャトルバスが運行されていて、快速「アクアライナー」で11:02に安来に到着した我々は、11:08発のシャトルバスに乗ったのですが、国道9号線を西へ走り、荒島駅手前で左折して県道180号線に入り、安来道路をくぐってずんずん山手へ走ること20分、こんなへんぴなところにあったとは。

イメージ 14 ▲足立美術館入り口。

 こんなへんぴなところにあるのに、安来駅前からのシャトルバスは、外国人観光客も含め満席。人気の高さが窺われます。

 この美術館を開いたのは、地元の実業家・足立全康。開館は1970年で、横山大観の作品130点を収蔵しており、これは質量ともに日本一。竹内栖鳳、橋本関雪、川合玉堂、上村松園ら近代日本画壇の巨匠たちの作品のほか、北大路魯山人、河井寛次郎の陶芸、林義雄、鈴木寿雄らの童画、平櫛田中の木彫なども収蔵し、見どころは尽きません。

イメージ 1 ▲枯山水庭。自然の山々と人工の庭園との調和が美しい足立美術館の主庭。

イメージ 2 ▲奥の自然の山々に霞たなびくのもいとをかし。

イメージ 9 ▲こちらは「白砂青松庭」。奥の滝口から渓流の如く曲折しながら手前の池に水が注ぎます。

イメージ 4 ▲こちらは「池庭」。池をたくさんの鯉が泳ぎます。

イメージ 5 ▲池庭の正面は煎茶室「清風」。

 横山大観コレクションと並ぶこの美術館の目玉は、広大な日本庭園。創設者足立全康は「庭園もまた一幅の絵画である」という信念のもとに生涯庭造りに心血を注ぎ、今、美術館内にあるのは「枯山水庭」、「白砂青松庭」、「苔庭」、「茶室寿立庵の庭」、「池庭」、「亀鶴の滝」の6つの庭園、計5万坪。この庭園を目当てに訪れる参観者も多いことでしょう。

 「池庭」に面した畳敷きの和室の床の間には掛け軸が……と思ってよく見ると、それはただの長方形のガラス窓。外の庭園が、窓枠を額縁に、あるいは掛け軸の表具に、一幅の絵に見立てられています。まさに「生の掛け軸」。すばらしいです。

イメージ 8 ▲掛け軸のような長方形のガラス窓から庭園が見える。

イメージ 7 ▲こちらは正方形のガラス窓の窓枠が額縁になった絵のよう。

イメージ 6 ▲茶室「清風」を入れ込んだ一幅の絵画そのもの。

 美術館のいちばん奥にある「池庭」から戻って来る途中で再び「枯山水庭」の前で足を止めると、右奥の山腹から一条の滝が落ちていることを発見。これは落差15mの「亀鶴の滝」で、横山大観の作品「那智乃瀧」をイメージして借景となっている亀鶴山に開瀑した人工の滝だそうです。大観作品を庭園で表現するという発想は、まさにこの美術館ならではです。

イメージ 10 ▲「枯山水庭」の右奥は、亀鶴山を模した借景。

イメージ 11 ▲その亀鶴山から落ちる一条の滝は「亀鶴の滝」。大観の作品をイメージしたもの。

 足立美術館のHPには、僕が最初に感じたように、多くの来館者が「なぜこのような田舎にこれほど見事な庭園がと半信半疑のような顔をされる」として、その答えが示されています。それは、「日本庭園と日本画の調和は当館創設以来の基本方針」、「日本人なら誰でも分かる日本庭園を通して、四季の美に触れ、その感動をもって横山大観という日本人なら誰でも知っている画家の作品に接することで、日本画の魅力を理解していただきたい」ということなのだそうです。しかし、この答えは「なぜこんな田舎に」という問いの答えにはなっていませんね。創設者足立全康が美術館の開設場所として自分が生まれた場所を選んだだけだという気もしますが(^_^ゝ。

イメージ 12 ▲京風の雅な「苔庭」。増殖する「苔ガール」には垂涎モノ。

 いずれにしても、足立美術館の庭園は本当に一見の価値があります。いえ、何度見に来てもいいでしょう。外国での人気は国内にも“逆輸入”され、日本人客も増加傾向という。

 「職員の一日は庭の掃除から始まる」という維持管理への高い意識が職員一人一人に徹底されており、7人いる庭師は全員が正職員で、「一日でも手を抜けば、すぐに分かる」、「例えば、その日の落ち葉は“生きた落ち葉”として絵になる。しかし、一日放置すれば丸まって景観を損ねてしまう」という細やかな作業が、日本一の庭園を造り出しているのです。

イメージ 13 ▲広々とした庭園から一転、このような箱庭のような一角も。