毎日ヶ原新聞

日本全国、時々中国、たまにもっと遠くへ、忘れちゃもったいないから、旅の記録。

蔦の森(紅葉まだき初秋のニッポン旅;その27)

イメージ 9 ▲紅葉にはまだ早い、八甲田南麓、蔦沼。

 2015年9月29日、雨の沼めぐり。

 リニューアル後初の宿泊となる蔦温泉旅館のチェックインを済ませ、日没まではまだ時間があると踏んで、急いで蔦沼めぐりをすることに。

 蔦温泉旅館は八甲田連峰南麓にある一軒宿で、背後にはブナの原生林が広がっていて、そこは「蔦の森」と呼ばれています。「蔦の森」の中には、いちばん大きい「蔦沼」など6つの沼が点在し、蔦温泉を起終点にこれらの沼を訪ね歩く周回約3kmの「沼めぐりの小路」という自然遊歩道があり、小一時間で一回りすることができます。ブナの原生林の中を歩けば、マイナスイオンに満たされて最高の森林浴。雨が落ちてきそうなので、傘を持って、少し急ぎ気味に一回りしてみましょう。

イメージ 1 ▲ブナの原生林「蔦の森」の中へ入っていきます。

イメージ 2 ▲周回約3kmの自然遊歩道にはマイナスイオンが充満。

 蔦温泉旅館の玄関を出て左前方にビジターセンターがあり、通常はここから遊歩道へ入って行くのですが、そうするとメインイベントの蔦沼に最初にたどり着くことになり、その後はそれ以上の見ものがない苦行となってしまいがちなので、メインを最後にとっておける、蔦温泉旅館西館脇の入口(ビジターセンター口から歩き始めた際の出口)から歩き始めることにします。

 ブナの原生林の中を歩くのは、本当に気持ちがいい。天気がよければもっと気持ちがいいけれど、雨の雫が時折降りかかる風情もまたをかし。

イメージ 4 ▲苔生した石塊の間を縫うように走る清流の音もすがすがし。

イメージ 5 ▲降りかかる落ち葉はまだ少なく、秋の訪れは感じさせません。

 西館脇から遊歩道に入ると、最初に現れるのが「瓢箪沼」、その次が「菅沼」。それから苔生した石の間を流れる清流などを眺めながら原始林の中をしばらく歩くと、次は「蔦の森」の最も奥まったところにある「長沼」です。沼岸に立てる位置からは、その名のとおり長い形状の「長沼」の奥行きの深さがよくわかります。水量が減って沼水が後退すると現れる草地が、今回も出現していました。

イメージ 3 ▲奥行きが深い「長沼」。手前は水域が後退すると現れる草地。

 「長沼」を過ぎると遊歩道は上りとなって高みを増し、木々の間から「長沼」の水面を左手に長めながらしばし進みます。

 「長沼」と「蔦沼」の間には、小さな二つの沼、「月沼」と「鏡沼」があります。「月沼」は、かつて蔦温泉に逗留した文人墨客たちが、宵になると瓢箪徳利をぶらさげて繰り出し、月を映す月沼で酒宴に興じたとされる沼。月を愛でながら酒を飲む場所が、いちばん大きな蔦沼ではなく、小さな月沼のほとりだったというのがおもしろいです。そして「鏡沼」。中洲のようにオオカサスゲが茂り、どこの沼よりも水が澄んでいる小さな沼です。

イメージ 6 ▲「鏡沼」のこぢんまりとした閑静なたたずまい。

 そして最後に「蔦沼」です。周囲約1kmの「蔦沼」は、この「蔦の森」の中で最大の沼。左手奥には標高1,298mの赤倉岳の姿が見られます。「蔦沼」の紅葉はたいへん素晴らしいらしく、吉永小百合さんを起用したJR東日本「大人の休日」の紅葉が真っ赤に燃えたポスターをご存じの方も多いことでしょう。この日は紅葉にはまだ早く、ブナ林を水鏡に映すほどには天気はよろしくなく、風が強くて水面は波立ち、日暮れも迫っていて、ポスターのような景観は望めませんでしたが、季節や天候によって一年365日、全く違う表情を見せるのが自然のよいところ。この日にしか見られない「蔦沼」の姿をしばし眺めて、ビジターセンターまでの残りの道のりを歩き始めたのでした。

イメージ 7 ▲左奥に姿を現しているのが赤倉岳かしら。

イメージ 8 ▲沼岸の木々の紅葉はまだ始まったばかりでしょうか。