毎日ヶ原新聞

日本全国、時々中国、たまにもっと遠くへ、忘れちゃもったいないから、旅の記録。

クシイナダヒメ(冬のニッポン雪景色;その37)

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818174533.jpg出雲横田駅に到着した1458D。

 2013年2月13日、神話のふるさと奥出雲。

 三段式スイッチバックを抜けて三井野原駅出雲坂根駅と下ってきて、次の駅は八川。

 木次線沿線と切っても切れないのが、松本清張推理小説を映画化した「砂の器」。2004年にSMAPの中居くんが主演してTBSで放映されたドラマならまだ記憶に新しいですが、やはり名作と呼ぶにふさわしいのは1974年に野村芳太郎監督加藤剛主演の映画「砂の器」でしょう。その映画「砂の器」で亀嵩駅の駅舎としてロケが行われたのがこの八川駅なんですね。今回は駅名標しか撮れませんでしたが。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818174528.jpg出雲坂根を出ると次の駅は八川。

 八川の次は終点の出雲横田。ホームが向かい合う2面2線の1番線ホームに到着です。反対側の線路に沿って白壁の長い建物が建っていますが、これはおそらく「雲州そろばん伝統産業会館」。天保元年(1830年)頃、奥出雲亀嵩の大工・村上吉五郎が「そろばんの祖」で、梅の木の芯を珠に、芯竹はスス竹、枠は樫の木を使って作られたのが始まで、このあたりは今も日本のそろばんの主産地なのだそうです。


https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818174544.jpg ▲到着した1458Dの前を横切って反対側のホームへ移動。

 次は24分の待ち合わせで16:03発の宍道行き1462Dに乗り換えるのですが、1458Dの運転士さんが、この車両がこのまま1462Dになるから、荷物は置いておいてもいいよ、と言ってくれました。なーんだ、時刻表上は別々の列車ですが、実は備後落合から宍道まで直通する列車だったんですね。(注:のちの3月改正で備後落合発宍道行き1462Dとして統合されました。)

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818174559.jpg ▲反対側のホームから1458Dの全体を見る。

 それでは荷物は車内に置かせてもらって、24分も時間があるので、ちょっと駅舎の外に出てみましょう。

 出雲横田の駅舎はとても立派です。一見出雲大社と見紛うような大社造の神殿を模した駅舎は1934年の開業当時から建て直されることなくずっと使われ続けているもの。太い毛筆のどっしりとした駅名板の下には立派なしめ縄がかけてあります。しめ縄は新しいもののように見受けられるので、毎年かけ替えるのでしょう。駅が大切にされていることが窺われます。入口脇のズンドウポストも愛らしいですね。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818174605.jpg ▲駅舎全景。円筒形のポストがまだまだ現役。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818174611.jpg ▲立派な駅名板に立派なしめ縄。ホンモノの社殿みたいです。

 駅舎の中、待合室もなかなかの趣です。窓枠、切符売場のカウンター、改札口、待合のベンチ……すべてが焦茶色の木造で、建設当時のデザインが今も守られているのではないでしょうか。改札口を抜けた先のホームの軒先にも小さめのしめ縄がかけてあるようです。

 しかし、改札口脇にある時刻表に記された列車の本数は少ない限り。臨時観光列車の「奥出雲おろち号」を除いた定期列車は備後落合方面は1日たった3本、平日に松江まで足を伸ばすのが1本、宍道行きが6本、木次止まりが3本です。いかに広島と島根の県境を越える人の移動が少ないかがわかります(もちろん、高速バスに流れたぶんもかなりあるでしょうし。)。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818174618.jpg ▲駅舎の中は1934年の開業当時の雰囲気のまま?

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818174623.jpg ▲備後落合方面の列車本数は極端に少ないです。

 ところで、備後落合から木次線に入ってから、各駅のホームにはJR西日本の通常の駅名標の他に、イラストと解説が描かれた手作りの駅名標も立っています。出雲は神話の国ということで、神話にまつわる愛称を各駅ごとにつけているようです。

 出雲横田駅の愛称は「奇稲田姫(くしいなだひめ)」。解説板には「駅の東南に稲田神社があります。このあたりで奇稲田姫が生まれたと伝えられています。八岐大蛇(やまたのおろち)の難を救い、姫を娶られた素戔嗚尊(すさのおのみこと)が高天原から天降(あも)られた鳥上(とりかみ)の峰、船通山(せんつうざん)にはここより東方、斐伊川の上流にそびえています。」

 しかしこの解説では「奇稲田姫」が何者かということはよくわかりません。スサノオは、ヤマタノオロチの生贄にされそうになっていた奇稲田姫との結婚を条件にヤマタノオロチの退治を申し出て、その結婚が決まると、スサノオ奇稲田姫を「湯津爪櫛(ゆつつまぐし)」という小さな櫛の形に変え、スサノオはその櫛を髪に挿しこんだままでヤマタノオロチを退治した。退治が終わると、櫛にされた奇稲田姫は、元通り美しい娘の姿に戻してもらい、スサノオの妻になったとさ、という神話があるらしいです。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818174538.jpg ▲神話の国・出雲らしく、各駅には神話にまつわる愛称が。出雲横田は「奇稲田姫」。