毎日ヶ原新聞

日本全国、時々中国、たまにもっと遠くへ、忘れちゃもったいないから、旅の記録。

2010春・新疆に行きたい心境(その15;キジル千仏洞)

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818205328.jpg ▲新疆クチャ・キジル千仏洞全景、と言ってもカメラに納まりきりませんが。

 2010年3月11日、莫高窟より数百年早い石窟群。

 クチャで一泊して迎えた翌日、キジル千仏洞へ出かけます。

 クチャは今でこそ漢字では「庫車」と書きますが、前漢時代に興き10世紀まで続いた「亀茲国」というオアシス国家があったところ。現代漢語では「カメ」の意味の時は「亀」は「gui(ぐい)」と読みますが、「亀茲」の時だけ「qiu(ちう)」と発音します。そして、今のクチャには広い範囲にわたって亀茲国の残した仏教遺跡が残っています。キジル千仏洞もそのひとつ。

 キジル千仏洞はクチャの中心部から75km離れたバイ県(拜城県)にあります。車でしばらく行くと、平坦だった砂漠地帯から切り立った崖の連なる山岳地帯へ入り込み、まだしっかりとは整備されていない、時には舗装さえされていない道を土煙を上げながらうねうねと走ります。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818205309.jpg キジル千仏洞へ向かう道。

 2時間近く走ったでしょうか。駐車場に車を停めると、そこは亀茲石窟研究所の敷地内で、研究所施設や観光客や来訪者を接待する建物が何棟か並んでいます。ここからガイドさんが案内してくれますが、日本語のガイドさんもちゃんといます。ウルムチの職業学校で日本語を学び、去年の夏からここでガイドをしているという甘粛省天水出身の楊智慧ちゃん、むっちゃかわいいです。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818205320.jpg 千仏洞が見えてきた。

 夏なら青々と葉を付けるであろう背の高い街路樹の並ぶ通りを抜けていくと、石窟が多数穿たれた崖が近づいてきます。キジル千仏洞です。発見されたのは1973年で、石窟の数は全部で237。東西に長く続く崖が荒涼とした雰囲気を醸し出しています。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818205324.jpg 街路樹の通りを抜けて。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818205339.jpg 石窟のある崖が長く続く。

 カメラの持ち込みが禁止されているので、崖の下の小屋でカメラや荷物を預けます。まあしかたないですね。そのあと、崖に沿って設けられた階段を伝いながら、対外開放されている石窟を見て回ります。ガイドさんが鍵を開けて、中に入って解説をしてくれます。

 キジル千仏洞の石窟は、敦煌莫高窟と同じく、窟内の壁画が有名です。飛天と言えば女性(つまり天女)ですが、キジル千仏洞の壁画には男性の飛天や伎楽天が描かれているのが特徴だとか。また、菱形の図柄を多用しているのも特徴なんだそうです。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818205359.jpg 窟に通ずる階段下から。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818205350.jpg 険しすぎる崖に窟が点在。

 ただし、キジル千仏洞の残念なところは、いずれの窟も荒らされたままで修復や手入れが行き届いていないということです。この地に10世紀頃にイスラムが入ってきて、偶像を否定するイスラムによって仏像や壁画が破壊されました。なんとか難を逃れた壁画などは、今度は後世西欧列強が入ってきた際等に主としてドイツによって持ち去られ、ベルリンの博物館に収められているものも多いと聞きます。現代に至っては、研究価値や歴史遺産、観光資源としての価値が見出されて保護が行われるまでは中国人の観光客らによって好き勝手に落書きがされたり壁が削られたりして荒れ放題になってしまったというわけです。

 そんなわけで石窟を参観して歩くと、「入場料をこんなにとってこの程度か!」と感ずるかもしれません。しかし、今は研究員ができて研究と修復が進みつつあるし、莫高窟よりも約300年も早く彫られ始めたという歴史的意義や価値もあるので、クチャを訪れたらやはりぜひ訪れたいところです。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818205354.jpg ▲このあたりが千仏洞のメイン部分。中には破壊を受けず保存状態が比較的よいものもないではない。