毎日ヶ原新聞

日本全国、時々中国、たまにもっと遠くへ、忘れちゃもったいないから、旅の記録。

太宰治生誕100周年記念トリップ(その8;演劇「津軽」)

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818224730.jpg芦野公園駅のホームに立つ古びた電柱と電灯。

 2009年9月3日、芦野公園駅

 津軽中里行き5レが行ってしまうと、芦野公園駅は静寂に包まれ……といきたいところですが、降りてみるとなにやら騒々しい。ホームが駅舎より少々高い位置にあるので、ホームから駅舎へは階段を数段下りることになりますが、その駅舎の横には足場やらベニヤ板やらが組まれ張り巡らされ、あれ?駅舎改修中ですか?という感じ。

 しかしそれは工事中なのではありませんでした。9月2日から6日まで、芦野公園駅では、太宰治生誕百周年記念イベントの一つとして、村田雄浩さんや川上麻衣子さんを主演に据えた演劇「津軽」の公演が行われていたのです。小説「津軽」の最も美しいシーンだとされる芦野公園駅での一節、

 「窓から首を出してその小さい駅を見ると、いましも久留米絣の着物に同じ布地のモンペをはいた若い娘さんが、大きい風呂敷包みを二つ両手にさげて切符を口に咥へたまま改札口に走つて来て、眼を軽くつぶつて改札の美少年の駅員に顔をそつと差し出し、美少年も心得て、その真白い歯列の間にはさまれてある赤い切符に、まるで熟練の歯科医が前歯を抜くやうな手つきで、器用にぱちんと鋏を入れた。少女も美少年も、ちつとも笑はぬ。当り前の事のやうに平然としてゐる。少女が汽車に乗つたとたんに、ごとんと発車だ。まるで、機関手がその娘さんの乗るのを待つてゐたやうに思はれた。こんなのどかな駅は、全国にもあまり類例が無いに違ひない。」

 この部分をモチーフに、本物の芦野公園駅を舞台にした野外劇が行われているのです。公演は午後5時会場、午後6時開演なので、午前中のこの時間は、スタッフのみなさんが舞台の調整をしたりしているていどで、野外劇の露天の舞台はからっぽでした。そう言えばさっきのアテンダントさんが地元客のおばあちゃんに「すっごぐいいんだって!」「してももう切符とれないのさ~」などと話していましたから、前日の初日公演は好評を博したのでしょう。

 露天舞台の観客席の背に当たる部分には、ポスターを大きく引き延ばした巨大な看板が掲げられていました。緑深い線路を遠くから近づいてくる津軽鉄道の列車の写真の真ん中の、2本のレールの間に白い文字を入れたポスターです。公演に合わせて、津軽鉄道では臨時列車も走らせているようです。観客席の席数はそれほど多くなく、すぐにいっぱいになってしまいそうです。僕もみたかったなあ、村田さん演じる小説「津軽」の舞台。太宰治生誕百周年、いろんなイベントがあって、わくわくします(^^)。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818224724.jpg芦野公園駅脇の観客席裏に掲げられた演劇「津軽」公演の巨大ポスター。