毎日ヶ原新聞

日本全国、時々中国、たまにもっと遠くへ、忘れちゃもったいないから、旅の記録。

「日本海」でいったりきたり(その27;蔦沼)

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818123645.jpg ▲南八甲田に位置するブナの原生林に抱かれた一軒宿・蔦温泉旅館。

 2006年11月28日、雨の蔦沼。

 八戸駅西口から乗った十和田湖行きのJR東日本バス「おいらせ号」は、道の駅「とわだ」で休憩停車をしたあと国道4号線から国道102号線へ入り、十和田湖温泉を抜けて焼山には14:54に到着しました。ここでとりあえず下車です。十和田湖へと南下する国道102号線と八甲田を抜けて青森市へ至る国道103号線の分岐点にあり、奥入瀬散策の拠点になる場所でもあります。

 ここで待つことしばし、15:13発の蔦温泉行きのJRバスがやってきました。これに乗って、この日の宿である蔦温泉旅館へ向かいます。焼山から蔦温泉までは国道103号線を北上して15分ちょっとですが、冬季は十和田湖、焼山方面から蔦温泉へ向かうバスは一日2本しかないので逃すわけにはいきません。

 蔦温泉はブナの原生林に囲まれた一件宿。大正時代に建てられた本館が今も現役で活躍していて、その風情がいいことと、なんと言っても浴槽の下に源泉があり、ブナの木の底板の隙間から直接お湯がわきあがってくるその湯の質の良さから、僕はけっこう蔦温泉に通っています。

 荷物を部屋に落ち着けたら、夕刻が迫っていますが、せめて蔦沼までは行ってみましょう。

 宿を取り囲むブナの原生林の中には、点在する沼をめぐりながら一時間ほどで一周できる遊歩道が通っていて、蔦七沼と言われる湖沼群のうち、約2.4kmのこの遊歩道を一周すれば6つはめぐることができるようになっています。しかしこの日は日暮れが近いので、七沼のうちいちばん大きな蔦沼にだけ行ってみました。依然として雨は降り続いていて傘を差しながらの行軍ですが、これまたなんとも言えぬ趣があって決して苦になりません。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818123622.jpg ▲雨に降り込められてしまった蔦沼。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818123626.jpg 雨にけぶります。

 蔦沼と言えば、JR東日本管内の方なら、「大人の休日」キャンペーンのポスターで真っ赤に染まったブナ林に囲まれた秋の蔦沼のポスターが印象に残っていらっしゃるかもしれません。秋の紅葉の季節はきっとすばらしいことでしょう。しかし11月も下旬となれば木々の葉は皆落ち、それに加えてこの雨と曇り空ではくすんだ景色が広がるばかりです。しかし、森閑としたブナの原生林の中に立ち尽くして、蔦沼の水面や、落ち葉に覆われた地面に、音もなく降る雨のその音を聞くのはなんとも言えぬ静謐な気持ちになりました。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818123634.jpg 遊歩道の向こうに蔦沼が。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818123630.jpg 静かに静かに雨が降る。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818123639.jpg 苔と落ち葉の道が続く。

 いつまでも雨にあたってばかりいるわけにもいきません。蔦沼を背にして遊歩道を歩き、宿まで戻ってきました。戻ってきてしまえば、地中から湧きたての温泉が待っています。とっくりと浸かって雨にさらされた体を温め、部屋に戻ればテーブルには夕食が並んでいます。前夜の乳頭温泉に続いてアユがあります。全体に決して豪華というものではありませんが、そこらへんの山でとれる山菜やキノコ類をふんだんに使い、素朴だけれどとてもおいしいお料理でした(^^)。食事を済ませてひと休みしたら、もちろんまた温泉に浸かりにいくのです。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818123651.jpg蔦温泉の本館の一室でいただく素朴な味わいの夕食。