麻婆豆腐レポート⑥(蜀道の難きは青天に上るより難し)
▲1800年前に桟道が架けられた渓谷。川は嘉陵江。
2007年4月19日、明月峡古桟道。
とうとう念願の「蜀の桟道」にやってきました。
復元された桟道を歩きながら、1800年前にここを行き交っていた人々のことに思いを馳せました。
今日は余計なおしゃべりなしに、李白の詩「蜀道難」の全文と明月峡古桟道の写真を掲載します。いちばん終わりに詩の書き下し文と通釈を添えておきました。長いですけれど、鑑賞していただければうれしいです。
今日は余計なおしゃべりなしに、李白の詩「蜀道難」の全文と明月峡古桟道の写真を掲載します。いちばん終わりに詩の書き下し文と通釈を添えておきました。長いですけれど、鑑賞していただければうれしいです。
蜀道難 李白 噫吁戯!危乎高哉! 蜀道之難、難于上青天。 蠶叢及魚鳬、開国何茫然。 爾来四万八千歳、不與秦塞通人烟。 西当太白有鳥道、可以横絶峨眉巓。 地崩山摧壮士死、然後天梯石桟相鈎連。 上有六龍回日之高標、 下有衝波逆折之回川。 黄鶴之飛、尚不得過、猿猱欲度愁攀縁。 青泥何盤盤、百歩九折縈岩巒。 捫参歴井仰脅息、以手拊膺座長嘆。 問君西游何時還、畏途巉岩不可攀。 但見悲鳥号古木、雄飛雌従繞林間。 又聞子規啼、夜月愁空山。 蜀道之難、難于上青天、使人聴此凋朱顔。 連峰去天不盈尺、枯松倒掛倚絶壁。 飛湍瀑流争喧豗、[石氷]崖転石万壑雷。 其険也若此、 嗟爾遠道之人胡為乎来哉? 剣閣崢嶸而崔嵬、 一夫当関、万夫莫開。 所守或匪親、化為狼與豺。 朝避猛虎、夕避長蛇、 磨牙吮血、殺人如麻、 錦城雖云楽、不如早還家。 蜀道之難、難于上青天、側身西望長咨嗟。▲対岸には崖のへりに鉄道が敷かれている。
▲切り立った崖にへばりつくように隧道が続く。
▲郵便列車を牽く機関車が顔を出した。
▲今でこそ左に道路、右に鉄路があるが、1800年前には何もなかった。
▲この断崖に鉄路を敷いたのは1950年代。
▲明月峡の石碑。いちおう観光スポットなのだ。
【書き下し】
噫吁戯(ああ)、危ういかな高いかな
蜀道の難きは青天に上るより難し
蠶叢(さんそう)と魚鳬(ぎょふ)と、開国何ぞ茫然たる
爾来四万八千歳、秦塞と人烟を通ぜず
西のかた太白に当たって鳥道あり、以て峨眉の巓を横絶すべし
地は崩れ山は摧(くだ)けて壮士死し、然る後天梯石桟相鈎連す
噫吁戯(ああ)、危ういかな高いかな
蜀道の難きは青天に上るより難し
蠶叢(さんそう)と魚鳬(ぎょふ)と、開国何ぞ茫然たる
爾来四万八千歳、秦塞と人烟を通ぜず
西のかた太白に当たって鳥道あり、以て峨眉の巓を横絶すべし
地は崩れ山は摧(くだ)けて壮士死し、然る後天梯石桟相鈎連す
上には六龍日を回(めぐ)らすの高標あり
下には衝波逆折の回川あり
黄鶴の飛ぶも尚過ぐるを得ず、猿猱(えんどう)度らんと欲して攀縁を愁う
青泥何ぞ盤盤たる、百歩九折岩巒を縈(めぐ)る
参を捫(な)で井を歴(へ)て仰いで脅息し、手を以て膺(むね)を拊ちて座して長嘆す
君に問う西遊して何れの時にか還る
畏途の巉岩攀(よ)づべからず
但だ見る悲鳥の古木に号(さけ)び、雄は飛び雌は従って林間を繞るを
又聞く子規の夜月に啼いて空山に愁えるを
蜀道の難きは青天にのぼるより難し、人をして此を聴いて朱顔を凋ましむ
下には衝波逆折の回川あり
黄鶴の飛ぶも尚過ぐるを得ず、猿猱(えんどう)度らんと欲して攀縁を愁う
青泥何ぞ盤盤たる、百歩九折岩巒を縈(めぐ)る
参を捫(な)で井を歴(へ)て仰いで脅息し、手を以て膺(むね)を拊ちて座して長嘆す
君に問う西遊して何れの時にか還る
畏途の巉岩攀(よ)づべからず
但だ見る悲鳥の古木に号(さけ)び、雄は飛び雌は従って林間を繞るを
又聞く子規の夜月に啼いて空山に愁えるを
蜀道の難きは青天にのぼるより難し、人をして此を聴いて朱顔を凋ましむ
連峰天を去ること尺に盈(み)たず、枯松倒(さかしま)に掛りて絶壁に倚る
飛湍瀑流争って喧豗(けんかい)、崖を[石氷](う)ち石を転じて万壑(ばんがく)雷(とどろ)く
其の険なるや此の如し
嗟(ああ)爾(なんじ)遠道の人胡為(なんす)れぞ来たれる哉
剣閣崢嶸(そうこう)として崔嵬(さいかい)たり
一夫関に当たれば、万夫開く莫し
飛湍瀑流争って喧豗(けんかい)、崖を[石氷](う)ち石を転じて万壑(ばんがく)雷(とどろ)く
其の険なるや此の如し
嗟(ああ)爾(なんじ)遠道の人胡為(なんす)れぞ来たれる哉
剣閣崢嶸(そうこう)として崔嵬(さいかい)たり
一夫関に当たれば、万夫開く莫し
守る所或いは親に匪(あら)ざれば、化して為らんと狼と豺とに
朝に猛虎を避け、夕に長蛇を避く
牙を磨き血を吮い、人を殺すこと麻の如し
錦城は楽しと云うと雖も、早く家に還るに如かず
蜀道の難きは青天にのぼるより難し、身を側めて西望し長く咨嗟(しさ)す
朝に猛虎を避け、夕に長蛇を避く
牙を磨き血を吮い、人を殺すこと麻の如し
錦城は楽しと云うと雖も、早く家に還るに如かず
蜀道の難きは青天にのぼるより難し、身を側めて西望し長く咨嗟(しさ)す
【通釈】
ああ、なんと危険で高いことか。
蜀への道は青天へ上って行くよりもなお険しい。
その昔、蠶叢や魚鳬という王が開国したのだという伝説がぼんやりと残っているが、
以来4万8千年もの間、秦の国境にある塞とも交通が開けなかったのだという。
西の太白山にあるのは、鳥しか通れないような道 峨眉山の頂を通っていくようなもの。
五人の壮士が山崩れで死んだあの事件があって、やっと高い梯や石の桟をかけての道ができた。
ああ、なんと危険で高いことか。
蜀への道は青天へ上って行くよりもなお険しい。
その昔、蠶叢や魚鳬という王が開国したのだという伝説がぼんやりと残っているが、
以来4万8千年もの間、秦の国境にある塞とも交通が開けなかったのだという。
西の太白山にあるのは、鳥しか通れないような道 峨眉山の頂を通っていくようなもの。
五人の壮士が山崩れで死んだあの事件があって、やっと高い梯や石の桟をかけての道ができた。
見上げれば太陽の乗る馬車もあきらめて迂回するような山、
見下ろせば周囲を囲んでいるのは逆巻き波立つ川の流れ。
黄鶴も飛んで越せそうもなく、猿も渡ろうとして怖じ気づくほど。
青泥の嶺はなんとも曲がりくねっていて、百歩の間に九回も折れ曲がって岩山や尾根をぐるりと繞る。
参の星を手探りし井の星を経てぜいぜいと息をし、手で胸をおさえては座して深く息をつく。
西へ旅立った君に尋ねたい、いったいいつになったら帰ってくるのかと。
危険な道、よじ登ることもできない岩山。
いつから生えているのかわからないような古木の枝で鳥が悲しげに啼き、雄鳥とそれに従う雌鳥が林の間を抜けていく。
あるいは月の光に照らされ人気のない山の中で憂鬱そうに啼くほととぎす。
蜀への道は青天へ上るより険しい、話を聞くだけで若々しい表情が老人のように変わってしまうほどに。
見下ろせば周囲を囲んでいるのは逆巻き波立つ川の流れ。
黄鶴も飛んで越せそうもなく、猿も渡ろうとして怖じ気づくほど。
青泥の嶺はなんとも曲がりくねっていて、百歩の間に九回も折れ曲がって岩山や尾根をぐるりと繞る。
参の星を手探りし井の星を経てぜいぜいと息をし、手で胸をおさえては座して深く息をつく。
西へ旅立った君に尋ねたい、いったいいつになったら帰ってくるのかと。
危険な道、よじ登ることもできない岩山。
いつから生えているのかわからないような古木の枝で鳥が悲しげに啼き、雄鳥とそれに従う雌鳥が林の間を抜けていく。
あるいは月の光に照らされ人気のない山の中で憂鬱そうに啼くほととぎす。
蜀への道は青天へ上るより険しい、話を聞くだけで若々しい表情が老人のように変わってしまうほどに。
連なる嶺々と天との境は一尺足らず、枯れた松の木が絶壁に上下逆さまに生えている。
急流の音と瀧の音が競い合って轟き、崖を打ち岩を転がす水音はあたかも雷鳴のようだ。
それほどに険しい道なのだ。
遠方から来たという旅の人、なぜこんなところにやって来たのか。
剣閣は高くそびえて険しく、
関所を守る者がたった一人いさえすれば、一万人がかかっても開かないと言われるこの難所に。
急流の音と瀧の音が競い合って轟き、崖を打ち岩を転がす水音はあたかも雷鳴のようだ。
それほどに険しい道なのだ。
遠方から来たという旅の人、なぜこんなところにやって来たのか。
剣閣は高くそびえて険しく、
関所を守る者がたった一人いさえすれば、一万人がかかっても開かないと言われるこの難所に。
関守は相手が自分の親族ででもない限り、狼や山犬と化すこともあるという。
朝には猛虎を避け、夕には大蛇を避けねばならない。
虎は牙を研ぎ、蛇は人の生き血を啜り、手当たり次第に人を殺しまくる。
だから錦城がどんなにすばらしいところであったとしても、さっさと故郷へ帰ったほうがいい。
蜀への道は青天へ上るよりなお険しい、西の方角を振り返り、ただ長いため息をつく。
朝には猛虎を避け、夕には大蛇を避けねばならない。
虎は牙を研ぎ、蛇は人の生き血を啜り、手当たり次第に人を殺しまくる。
だから錦城がどんなにすばらしいところであったとしても、さっさと故郷へ帰ったほうがいい。
蜀への道は青天へ上るよりなお険しい、西の方角を振り返り、ただ長いため息をつく。