毎日ヶ原新聞

日本全国、時々中国、たまにもっと遠くへ、忘れちゃもったいないから、旅の記録。

厳冬の中国最北端をゆく(その3;軟臥の一夜)

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818130451.jpgハルビン駅で発車を待つ41次列車の牽引機DF4D-0369(フラッシュ焚いたバージョン)。

 2007年1月5~6日、軟臥車。

 今回の一行は僕も含めて計3名。ハルビンからのN41次列車の切符はハルビンの旅行社に頼んで確保してもらいました。確保したその切符は、このブログでは初登場、「軟臥車」の切符でした。

 「軟臥車」というのは、二段寝台が向かい合っている4人用の個室で、日本にかつてあった「カルテット」のイメージかとも思いますが、中国の「軟臥」はそれよりもグレードが高く、料金もいちばん高い設定になっています。二段寝台と言っても日本の寝台車より天井がはるかに高いし、ベッドのクッションや装飾、布団類の質、受けられるサービスまで、日本の三段式B寝台に当たる「硬臥」とは雲泥の差です(写真がなくてすんません)。

 通常、中長距離を走る列車にはこの「軟座車」が一両組み込まれています。一両には8室ありますから定員は32人です。我々はそのうちの一室を占めたわけですが、驚いたことに、今回のN41次列車はいわばローカル線を走る列車だというのに、なぜか「軟座車」が2両も連結されていました。すごいなあ。どうしてなんだろう?

 21:54、N41次列車は静かにハルビン駅を発車しました。発車後すぐに松花江を渡る鉄橋を渡るはずですが、外が真っ暗なのと窓ガラスが曇ったり凍ったりしていて外の様子はほとんどまったく何もわかりません。外は確実にマイナス20℃以下。しかし「軟臥車」の個室の中は暑いくらいに暖房が効いています。布団もぬくぬくです。待合室の売店で事前に買い込んだハルビン地ビール「太陽島ビール」を開け、就寝前の晩酌です。

 ハルビンを出たN41次列車は北西へ向けて快調に走ります。日本の三段式開放B寝台にあたる「硬座車」のほうは22時台から23時過ぎぐらいまでの間に完全消灯されてしまいますが、我らがコンパートメントは室内に電灯のスイッチがあるので消灯時間は自由自在。ドアを閉めてしまえば完全に外界とは遮断されて、ぬくぬくとした暖かく静かな空間に包まれます。

 ハルビンからチチハルまでは、北京から満洲里経由でモスクワへ向かうシベリア鉄道にもつながる幹線鉄道なので、走りは快調です。当時の時刻表ではチチハルまでの間に肇東、宋、安達、大慶に停車することになっていますが、乗っていた感じではもっと停車駅は少なかったような…… 中国の鉄道時刻表は年に2回、4月と10月に出版されるだけで、その間に行われたダイヤ改正については駅に行かない限りほとんど知ることはできません。このとき僕が持っていたのは2006年10月版の時刻表だったわけですが、2007年4月版ではN41次列車のチチハルまでの間の停車駅は肇東と大慶だけになっているので、おそらくこのときにはもうその新しいダイヤになっていたのではないかと思います。

 N41次列車は、ハルビンからチチハルまでの298km3時間26分で走ります。表定速度は86.8km/h、幹線だけあってなかなかの俊足です。チチハル到着は深夜01:20。この頃までには僕もすっかり寝入ってしまっていました。列車はここから進路を北に変え、富裕駅まで斉北線、富裕駅から富西線を北へとひた走ります。

 緯度はすでに北緯47度を越えており、夜が明けるのは遅かったはず。しかし、コンパートメントなのでおはよう放送もないし、うだうだと眠り惚けて、起き上がる気になったときにはすでに朝もずいぶん遅い時間になっていました。
 ふと見ると停車駅に入ったようです。時計は08:52を指しています。窓の外に見える小さな駅舎には「納爾克気」と書いてあります。「ナルコチ」とでも発音するのでしょうか、おそらくモンゴル語の地名に当て字をしたのだと思います。富西線は嫩江からいったん黒龍江省から内蒙古自治区に入ります。ナルコチ駅は内蒙古自治区にある駅なのです。途中通過する駅などでは、木材を積んだ長大編成の貨物列車や、駅ごとにある木材の集積場が目につくようになってきます。このあたりは大興安嶺、小興安嶺という中国でも屈指の森林が広がっているのです。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818130500.jpg ぼんやりと朝日が車窓に射す。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818130455.jpg ▲08:52、納爾克気駅停車。内蒙古自治区最北部の小さな駅のよう。快晴だけど寒そう……。