毎日ヶ原新聞

日本全国、時々中国、たまにもっと遠くへ、忘れちゃもったいないから、旅の記録。

お茶の都・杭州そぞろ歩き(その4)

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818203007.jpg ▲茶館にて。

 中国杭州河坊街。

 河坊街を人混みにもまれながら反対側の端まで歩き、また引き返してきました。すごい人混み、汗ばむ陽気、それにけっこう歩いたし、ちょっと一休みしたいなあ……

 ふと、店先に陶製の急須を手に提げた銅像が立っている店を発見。店の中では「長衫」という昔の中国服を着て丸い帽子に弁髪を垂らした店員さんが立ち働き、客は木のテーブルと木の腰掛けでのんびりとお茶を飲んでいます。銅像の上には「太極茶道苑」の看板。その下には「中華老字号(中国政府が認める老舗の称号)」の看板も。なるほど、ここは「茶館」です。よし、ここで一服入れることにしましょう。二階は「雅座」と書かれています。上等席ということです。少し静かにゆっくりしたいので、奮発して二階へ上がります。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818202932.jpg 茶館の店頭。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818202937.jpg ここは老舗「太極茶道苑」。

 「茶館」は唐の時代に始まったものだそうです。最初は旅人がのどの渇きを癒すために立ち寄る場所だったのが、やがて南宋の時代には、書画骨董を店内に飾ってみたり、庶民が日がな一日茶を飲みながら世間話に花を咲かせてみたり、インテリたちが延々と議論を戦わせたりする社交場のような役割を果たすようになり、明や清の時代には茶館はますます盛んになります。近代中国の作家・戯曲家である老舎の有名な戯曲に「茶館」というのがあり、映画化もされたことがありますが、まさに茶館を舞台に、清朝末期の微妙な時代を生きた茶館の主と常連客たちの悲哀が描かれています。当時の茶館には、その微妙な時勢を反映してか、「莫談国事(国事談ずるなかれ)」、つまり「政治のことはおしゃべりしちゃいけないよ」という貼り紙がしてあったそうです。

 二階は客も少なく、黒光りするテーブルや腰掛け、床板、板壁、手洗い用の水が張られた甕、陶器の茶壺がいくつも納められた棚、飾り戸のついた茶器棚、そして弁髪に長衫のお茶注ぎたち。一気に清朝末期へタイムトリップです。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818202958.jpg 老舎の頃もこんなだったのかな。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818203013.jpg 壁には往時のメニューが。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818202941.jpg ▲茶葉を入れた茶壺と茶器棚。

 頼んだお茶は、出回り始めたばかりの今年の新茶の「龍井茶」と、お隣の安徽省にある祁門で生産される世界三大紅茶の一つ「祁門(キーマン)紅茶」。茶葉の入った蓋椀にお湯が注がれ、茶葉が開いたところで蓋をしたまま、あるいは蓋の縁で茶葉を向こうに押しやって茶を飲みます。お湯の入ったポットも置かれ、いくらでも注ぎ足すことができます。あーおいしい!龍井もキーマンもとてもおいしいです。テーブルの上には果物やドライフルーツ、ひまわりの種など、お茶請けがたっぷり。これらのお茶請けは食べ放題なのだそうです。いやあ、なんとも至福のひととき。何の気なしにこの店にふらりと立ち寄りましたが、あとでわかったことには、ここはTV番組「世界ウルルン滞在記」に登場したことがあるのだとか。有名な店だったんですね。

 二階の開け放たれた窓からは、大勢の人出で混雑する河坊街を見渡すことができます。河坊街の喧噪と茶館ののどかさ。のんびりゆっくり、お茶の都・杭州でお茶を楽しもうではありませんか。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818202954.jpg ▲左がキーマン、右が龍井。たくさんのお茶請けと、別注文の「黒芝麻糊(黒ごまとでんぷんを溶いたお菓子)」。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818202948.jpg ▲茶館の二階雅座から眺める河坊街の喧噪。