毎日ヶ原新聞

日本全国、時々中国、たまにもっと遠くへ、忘れちゃもったいないから、旅の記録。

帰省ついでの青荷温泉①

 2005年1月8日、青荷温泉

 今年(2007年)は異常なまでの暖冬ということで雪景色に恵まれなかったので、もう春になったけれど、もうしばらく大雪だった冬を思い出してみようかと思います。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818222350.jpg

 2005年の年が明けてからの青森の雪はなかなかのものでした。年老いた両親しかいない青森の実家は雪かき雪下ろしをする人手がなく、屋根に積もった雪の重みで家の中のふすまや障子が開きにくくなってきたというので、成人の日の三連休を利用して、実家の雪かきと雪下ろしをするために帰省することにしました。でもそれだけでは物足りないので、友人と三人組を組んで、ランプの宿で知られる青森・青荷温泉への一泊旅行も付け足しました。地元民のくせに、青荷温泉に行くのはこれが初めてです。

 JR東日本三連休パス適用期間ということで東京を出発する「はやて」は軒並み満席。東京組の我々二人は早朝の上野駅15番線前石川啄木歌碑前に集合して上野07:02発の「はやて1号」に乗り、八戸で1001M特「スーパー白鳥1号」へリレーして、11:14に青森へ到着。青森駅は人通りの多いはずのホームの雪も溶けきらないほどの冷え込みでした。

 青森駅東口で三人全員集合。高校の時から通っているラーメン屋「味の札幌」で味噌カレーバターラーメンを食べたあと(やっぱりここのラーメンがいちばんうまい)、三人のうち現在青森在住の人の車に乗っていざ出発。黒石・虹の湖公園を目指します。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818222354.jpg 虹の湖公園周辺。

 冬季は自家用車で青荷温泉へ行くことはできません。バスで来る人も自家用車で来る人も、全員が虹の湖公園まで迎えに来てくれる青荷温泉の送迎バスに乗り換えなければなりません。なんとなれば、国道と青荷温泉を結ぶ山道が車一台ぶんしか除雪されず、アップダウンや急カーブを繰り返す上、駐車スペースも雪に覆われるためです。

 虹の湖公園15:00発の送迎バスに乗って山道を登ること約20分、深い雪原が広がっているところでいったん停車。この雪原で、冬の青荷温泉名物、雪上車乗車体験が行われます。マイクロバス一台ぶんの宿泊客たちは二台の雪上車に分乗し、爆音とともに雪原に走り出て、雪原を一回り、約7分。なかなか貴重な体験です。この雪上車体験、2006年の冬からは有料(1000円)になってしまい、虹の湖公園を出発する前に希望すると別のバスに乗せられ、希望しない宿泊客はこの雪原で停まることなしにまっすぐ宿へ行くようになりました。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818222358.jpg 青荷温泉名物の雪上車。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818222403.jpg 雪原を走る。

 雪原からマイクロバスでさらに5分ほど登ると、登り切った先の谷に、青荷温泉の建物が姿を現します。部屋は離れをあてがわれました。ふた間続きの部屋が廊下を挟んで向かい合っている四部屋しかないその離れ棟は、向かいのふた部屋にはまだ客が到着していないこともあって、我々が部屋に入って荷物を落ち着けると、しーーんとして気味が悪いほどです。部屋には電気が来ていないのでテレビや冷蔵庫などはもちろんありません。携帯電話ももちろん「圏外」。ちゃぶ台とポットに湯飲み茶碗、それに赤々と燃える石油ストーブがあるだけです。天井からはランプを吊り下げる針金が下がっていて、天井はランプのすすで黒くなっています。窓の外は、宿の本館との間に渓流が流れていて、行き来には小さな吊り橋を渡らなければなりません。窓を開けると、渓流の音と冷たい空気がどうっと部屋の中に入ってきます。しかしすべてが厚い雪に覆われているので、それ以外の音は聞こえません。時々部屋の中で石油ストーブの炎のぼっと揺れる音がするだけです。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818222408.jpg 離れの部屋の窓から。

 谷底にある宿に訪れる冬の夜は早く、午後4時半には各部屋にランプがやってきます。ランプ係の青年が各部屋を回って、大きな火屋のランプを吊り下げ火を点します。時間の早いうちは外もまだ明るいのであまり感じませんが、すっかり日が暮れてしまうと、ランプの火しか光がないことがいかに暗いかということを実感せずにはおれません。本を読むには暗すぎる、動き回るにも暗くて周りがよく見えない、携帯メールを打つにも圏外だ。いったい何をすればよいのでしょう?

 虹の湖からの送迎バスの中で運転手さんが言っていました。「うち(の宿)には温泉とタイクツしかありません」。

 そうなのです。ここは、何かをしに来る場所ではないのです。

 入りたくなったら四カ所ある温泉にどぶんと浸かり、温まったらランプの明かりの下で酒を飲み(部屋の濡れ縁に積もった雪の中に、黒石駅隣接のスーパーで買い込んだ缶ビールやら日本酒の四合瓶やらを埋めて冷やしておきます。日本酒を飲むのが湯飲み茶碗というのもしぶい)、眠くなったら布団を敷いて寝るのです(ここでは布団を敷くのは宿泊客の仕事)。

 黒石に来たら酒は「初駒」「玉垂」「菊乃井」か。何を飲んだか今となっては忘れてしまったけれど、天然冷蔵庫できりきりに冷えた酒を湯飲み茶碗で飲むほどに夜は更けて、しかしいつまでのランプの光はちらりちらりと天井に影をゆらめかせ、ストーブの炎がまたひとしきりぼうっと言いました。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mainichigaharu/20190818/20190818222414.jpg 離れの廊下にストーブ一つ。