臼杵竹宵、秋の灯はほのかに⑬(大畑駅)
▲線路が錯綜する大畑駅構内。左から登ってきてまた右へ登っていかなければならない。
2005年11月7日、大畑駅。
走り去る「しんぺい2号」のエンジン音が遠ざかると、山あいに再び静寂が降りてきました。
1909年の開業、開通から、1927年の出水、川内経由のルートが開通するまでは、今の肥薩線が鹿児島本線として南九州の幹線輸送を担っていたそうです。しかし当時は皆蒸気機関車、スイッチバックやループ線をたくさん取り入れないと矢岳越えに挑むことはできなかったのでしょう。その結果、矢岳越えへ向かう手前のここ大畑駅には、蒸気機関車たちが息を整え、石炭も水もいっぱいにするための設備が必要になったというわけです。意外なほど広く感じる構内や、立派な給水塔の址は、その名残です。ホームに残る大きな朝顔のような手水鉢は、これから挑む矢岳峠を前に機関士や乗客がひと息ついて顔や手を冷たい水に浸すために使われたのでしょう。今は水は張ってあるものの、水草やら苔やらでいっぱいで手をつけるのもはばかられるようなありさま。せっかく矢岳越えのこの区間が観光地として大勢の人が訪れるようになってきているのですから、清水が湧く手水鉢に戻して訪れる人が冷たい水を楽しめるようにしたらよいと思うのですが……。
大畑駅の開業も1909年。
当時を忍ばせる給水塔が残る。
秀逸なデザインの手水鉢。
さぞや難工事だったのだろう。
2004年夏の青春18きっぷのポスターに登場している大畑駅が、ループ線とスイッチバックの複合駅であるこの駅の定番ショットでしょう。きっとこの近くの山の上に、大畑駅定番の撮影ポイントがあるのでしょうけれど、事前学習不足でそこへは行けませんでした。のんびり散策も兼ねてこのあたりの山歩きをしながら撮影もできたら、特にこの日のような穏やかな天気の日にはさぞや気持ちがよいことでしょう。
それはさておき、大畑駅での約40分ばかりの途中下車もまもなく終わりです。もうすぐ、さっき見送った「しんぺい2号」が人吉で折り返しとなって戻ってくる「いさぶろう3号」が姿を現すはずです。そしたらそれに乗って、再び矢岳越えへ挑みます。
秋の日に木造駅舎も眩しげ。