名残の「彗星」、そして火祭り⑦(臼杵石仏火祭り)
▲午後7時を過ぎると、松明が一斉に点る。
2005年8月27日、臼杵、日が暮れて火祭り。
国宝臼杵石仏の火祭りは、毎年8月の最終土曜日に行われています。もともと旧暦の7月24日の地蔵菩薩日に行われていたお祭りが、いつの頃からか豊作祈願、石仏供養、虫送りなどと結びつき、昭和34年からは信仰と観光の両面から火祭りとなって行われるようになったのだそうです。
火祭りとしては西日本最大と言われる臼杵石仏火祭りは、それぞれの石仏群の前に篝火を焚き、参道や石仏前の広場に約千本の松明を点します。映画「なごり雪」の中でも、11月に行われるお祭り「竹宵」のシーンと並んで最も美しいシーンとして、素晴らしい映像で描かれています。
参道に沿って改めて一つ一つ石仏群を参拝してまわります。参道の松明にはすでに火が点され、石仏の前では勢いよく篝火が燃えさかっていて、ただでさえ暑い夏の夜をさらに熱しています。
石仏の前で燃えさかる篝火。
穏やかなお顔の石仏さま。
石仏前広場の松明への点火は午後7時。
ひととおり石仏をまわり終わって、ふと後ろを振り返ると、一斉に点火されて広場いっぱいに火が揺らめく幻想的とも言える光景が目に飛び込んできて、思わずはっと息が止まりました。
▲石仏群のある山の上から広場を見下ろす。これが臼杵の真夏の夜である。
これは、美しいです。
いや、ただの闇の広がりの中に松明が点っているだけなのですが、ゆらりゆらりと、あるいはちりちりちりと揺らめく松明の一つ一つのともしびに、石仏さまとともに暮らし、石仏さまに守られて暮らしている人々の温かで穏やかな心と、一年にたった一晩だけの火祭りをこうして静かに思い思いに過ごしている姿が感じられて、なんだかとても美しく見えたのです。
広場の片隅からは力強い太鼓の音が響いてきます。様々な伝統芸能も披露されているようです。広場入口には露店がたくさん軒を並べ、生ビールややきそばや焼き鳥や、お祭りに必須のアイテムを求める人たちで賑わっています。
篝火はいよいよ熱く。
この火祭りには、県内外からの観光客もきっと大勢きていることでしょう。でも、僕がこの日感じたのは、地元の人たちもすごくたくさん来ていて、地元の人たちが心からこのお祭りを楽しんでいるようだということです。僕の故郷青森のねぶた祭りなどもそうですが、完全に観光客向けになってしまって地元民からはそっぽを向かれる祭りも多くなっていると聞きます。しかし、臼杵の火祭りは、派手な演し物があるわけでもなく、奇抜な特徴があるわけでもないけれど、松明の点った参道を静かにうねうねと歩きながら真夏の一夜を思い思いに過ごす、それが地元に根付き、地元の人たちがそれを率先して楽しんでいるように見え、とてもうらやましく感じました。
シャトルバスには長蛇の列ができていたので、これでは間に合わないと思い、タクシーで大急ぎで上臼杵駅に向かいます。21:24発の2748Mに滑り込みで間に合って、ほっとひといき。大分までは44分かかります。
松明の向こうに石仏群の明かりが点々と見える。